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- 2021.08.24 Tuesday
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お客様からや、また講演会などでも
「家紋は変えられるのですか?」
という質問を受けることがよくあります。
自分の家の家紋が嫌だとか、ありふれているなどの理由で
家紋を変えたいと思ってらっしゃる女性が意外に多いのです。
呉服屋さんや紋屋さんに相談されると、
その答えのほとんどが「家紋は守るものであって変えてはいけない」とのようです。
かつて武家において家紋は重要な役割をし、簡単に変えるものでなかったのは確かです。
しかし、逆に家紋を変えなければならない場合もあるのですね。
それは本家から分家として分かれる際に、家紋にも区別を必要とした時です。
その場合、本家の家紋を変化させるのですが、
その原型が何であるか一目で分かるようにアレンジするというものです。
そういう制約の中で作られた家紋変化系の数はすさまじく、
現在確認されているだけでも5万種を超えています。
姿を消したものや、まだ確認されていないものは未知数で、
おそらく想像を超える大きな数になるでしょうね。
紋の数が増えだしたのは、戦国時代が終わり世の中が平和になった江戸時代の元禄の頃です。
それまで家紋は主に武家のものでしたがその頃から一般庶民も家紋の真似事を始めたのです。
庶民の場合は武家のような決まりはなく、自由奔放に紋を付けたのですね。
単にアクセサリーとして、つまりファッションであったといえるでしょう。
当時のファッションリーダーは歌舞伎役者や遊女達です。
今でいう俳優やタレントさん達ですね。
そうやって庶民達が真似をし、驚いたことに
その庶民たちの真似を武士がするという逆転現象まで起こったのです。
結果、家紋文化は乱れましたが紋が広く浸透していく結果となったのです。
その頃の紋章上絵師達はデザイナーとして腕を競い、
様々なバリエーションを生み出していました。
紋帖は家紋を伝えると共に、デザインブックの最たるものだったといえるでしょう。
庶民は気楽に自分だけのオリジナルの紋章も楽しんでいたのですね。
武士は権力により敵から家紋を奪い取る。
また譲り受けるなどで複数の家紋を持つことも常でした。
その内の一つを「定紋(本紋・表紋)」として国に届け公式に。
あとは「替え紋(裏紋・控え紋)」として非公式にと、それぞれを使い分けていたのです。
小夏さん、いかがですか? 家紋は用途により使い分け、また楽しむものという考え方。
素敵だと思います!
紋帖を拝見すると、実に様々なモチーフの家紋があって、本当に楽しくなります。
こんなに楽しいデザインを使わないのはもったいないですよね。
公式な場所ではともかく、お洒落で紋を使い分けるのも面白いですよね。
自由に楽しんでもいいですよね?
先生はいかがですか?
替え紋、使い分けてらっしゃるんですか?
いえ、私は我が家に伝わる一つの家紋
「割り梅鉢」というちょっと珍しい紋を大切に守っています。
「一族に伝わる」ということに私はロマンを感じるんですね。
だから工房ののれんはもちろんのこと、Tシャツや作務衣の胸に付けたり、
ペンダントトップや名刺入れなど、いつも家紋を身近に感じるようにしているんです。
家紋は国で決められたものではないので、考え方はそれぞれあってもいいと思いますが、
私達家紋研究家の立場からは、なるべく変えてほしくはありません。
何故なら、家紋は名字とリンクしていますので、名字からの調査が出来なくなるからです。
もしどうしてもと言うのであれば、モチーフはそのままで、アレンジ程度に留めてほしいのです。
ところで女性専用に付ける「女紋」は家紋ではありませんから、これはまた別物です。
(当社ウェブサイト内『我が家の家紋』)
http://www.omiyakamon.co.jp/kamon/wagaya/index.html
先生のおうちの家紋は、他ではなかなか見かけない珍しい紋ですよね。
ありふれた物じゃなくて、”我が家だけ”なんて特別な家紋はロマンありますね!
伝えられた経緯や誕生秘話など知りたくなりますね。
あ、そういえば我が家にも「女性だけがつける紋があったらしい・・・」
というような話を叔母から聞いたことがあります。
今は実物も残ってなく、叔母が見たという記憶の中にあるだけで形も曖昧なのですが・・・。
そんな話を聞くと、その家紋について知りたくなりますし、思いを馳せてしまいますね。
途切れてしまったのが寂しいです。
我が家にも女紋があったなんて、ちょっとロマンですよね。(笑)
あ、そういえば先生の著書「女紋」には、
このような女性がつける紋について詳しく書かれていますよね!
読ませていただいて、地域による習慣の違いなど
「女紋」とは誤解も多く複雑なものなんだなぁと驚きました。
ん?でも、着物ドクターの先生が、なぜ「女紋」の研究を?
あ、出版に至った経緯ですね。
はい、ではそれは次回ということで。
次回のテーマは「■35■ 女紋」です。お楽しみに!
着物や羽織に施してある染め抜き紋も色落ちがよく見られますね。
特に黒紋付に多く、両胸からの汗や、
小さな子供を抱いた時に付いた水溶性のシミによる紋泣きです。
そして雨によって泣いたもの。
紋が泣くんですか?(笑)
染着物の制作中に模様場の染料がにじんだりした時に、
我々の業界用語で「泣く」と言います。紋も泣きます…
まさか、笑ったり・・・も、するのですか?(笑)
笑います。
笑ってもらっては困るのですが…(汗)
昔、父が言ってましたよ。
「弱った生地を、うっかり染み抜きで縦糸だけが切れた時に、
生地が横に裂ける場合があるんや。それを『あっ、笑いやがった!』と言うたもんや」
笑った口元を連想したのでしょう。
下手をして着物に笑われてはいけませんね。
そうですね。(笑)
さて、既製品の黒紋付の場合、
円に白抜きされたところ(石持ち・こくもち)に紋を入れるのが通常です。
石持ちに紋上絵(紋形を表すライン)を描くには、
その紋の形状を白で残して石持ちを消さなければなりません。
つまり紋と地の黒との間の円を黒で埋めてしまうのです。
まず手描き上絵の場合は、水性の黒の染料を摺り込みます。
そして蒸気で加熱して染付けますが、
通常は正規の染加工のように高熱で長時間蒸したり、
水元(水洗い)はしません。
結果、水がかかったり、体温の伴う汗などでは
色が落ちる可能性はかなり高いということになります。
水に強い油性のインクを使う、印刷紋の場合は全くそのような心配はありません。
しかし、インクは地染めの染料に馴染みにくく、石持ちの円を消すのは至難の業です。
そのため上絵はインクでも、石持ち部分は水性染料で消す場合があるのです。
この場合は手描き同様に色泣きの危険性はあるということです。
綺麗に円を消すことを重視するか、
泣きを回避することに重点を置くかは職人に委ねられるわけですね。
また描きたての紋は摩擦に弱く、仕立ての紋合わせの際は要注意ですね。
手描きの墨はニカワが乾ききるまで、印刷のインクも定着するまで
少し日数をみておかなければなりません。
私たち消費者には分からない部分で、様々な問題があるのですね。
でも、以前先生のところで何度も黒紋付を染めていただいていますが、
石持ちの跡は全く見えないですし、色が滲んだことも一度もありませんよね。
やっはり、これも技術の問題なんですか?
これまでの、小夏さんからの紋付制作依頼は全て誂え(別注品)ですから、
白生地の段階で紋の形状に紋糊を置いて染めていました。
石持ちに糊を置いていませんから、ふち消しの必要はないのです。
そのための誂えですから、メリットがなければ意味ありませんよ(笑)
あ!そうですよね。白生地からの誂えですから、
石持ちを作る必要が無いわけだ。(汗)
始めから紋の形に染め抜くんですもんね!
ところで先生。
もし色が滲んだ場合、直すことは出来るのですか?
はい、できますよ。
ほとんどの場合、仕立てを部分的に解かなければならないですが、直ります。
紋泣きの場合もガードがかかっていれば、被害はうんと少なくて済みますね。
紋の職人さんには、紋の部分だけでも防水スプレー処理をするように薦めていますが、
現状は果たしてどうだか・・・。
「紋は泣くもんや、昔は皆気ぃつけたもんや!」
このような頑固な上絵職人さんもおられますよ。
しかし、着物の日常着時代はこの職人さんの言うように、これが常識だったのですね。
紋とはそういうものだとも私はお伝えしたく思います。
前回の「本物」に通じるところがあるかもですね。
なるほど。昔の常識が今では通用しなくなったってことですね。
洋服では「色が泣く・・・」なんてことは、ほとんど出合わなくなって来ていますから、
洋服感覚でいると着物では思わぬトラブルに遭遇することもあるという訳ですね。
「紋とはそういうもの」
分かりました!頭に入れておきます。
次回は「■33■ 紋の入れ替え」です。お楽しみに!