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- 2021.08.24 Tuesday
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着物や羽織に施してある染め抜き紋も色落ちがよく見られますね。
特に黒紋付に多く、両胸からの汗や、
小さな子供を抱いた時に付いた水溶性のシミによる紋泣きです。
そして雨によって泣いたもの。
紋が泣くんですか?(笑)
染着物の制作中に模様場の染料がにじんだりした時に、
我々の業界用語で「泣く」と言います。紋も泣きます…
まさか、笑ったり・・・も、するのですか?(笑)
笑います。
笑ってもらっては困るのですが…(汗)
昔、父が言ってましたよ。
「弱った生地を、うっかり染み抜きで縦糸だけが切れた時に、
生地が横に裂ける場合があるんや。それを『あっ、笑いやがった!』と言うたもんや」
笑った口元を連想したのでしょう。
下手をして着物に笑われてはいけませんね。
そうですね。(笑)
さて、既製品の黒紋付の場合、
円に白抜きされたところ(石持ち・こくもち)に紋を入れるのが通常です。
石持ちに紋上絵(紋形を表すライン)を描くには、
その紋の形状を白で残して石持ちを消さなければなりません。
つまり紋と地の黒との間の円を黒で埋めてしまうのです。
まず手描き上絵の場合は、水性の黒の染料を摺り込みます。
そして蒸気で加熱して染付けますが、
通常は正規の染加工のように高熱で長時間蒸したり、
水元(水洗い)はしません。
結果、水がかかったり、体温の伴う汗などでは
色が落ちる可能性はかなり高いということになります。
水に強い油性のインクを使う、印刷紋の場合は全くそのような心配はありません。
しかし、インクは地染めの染料に馴染みにくく、石持ちの円を消すのは至難の業です。
そのため上絵はインクでも、石持ち部分は水性染料で消す場合があるのです。
この場合は手描き同様に色泣きの危険性はあるということです。
綺麗に円を消すことを重視するか、
泣きを回避することに重点を置くかは職人に委ねられるわけですね。
また描きたての紋は摩擦に弱く、仕立ての紋合わせの際は要注意ですね。
手描きの墨はニカワが乾ききるまで、印刷のインクも定着するまで
少し日数をみておかなければなりません。
私たち消費者には分からない部分で、様々な問題があるのですね。
でも、以前先生のところで何度も黒紋付を染めていただいていますが、
石持ちの跡は全く見えないですし、色が滲んだことも一度もありませんよね。
やっはり、これも技術の問題なんですか?
これまでの、小夏さんからの紋付制作依頼は全て誂え(別注品)ですから、
白生地の段階で紋の形状に紋糊を置いて染めていました。
石持ちに糊を置いていませんから、ふち消しの必要はないのです。
そのための誂えですから、メリットがなければ意味ありませんよ(笑)
あ!そうですよね。白生地からの誂えですから、
石持ちを作る必要が無いわけだ。(汗)
始めから紋の形に染め抜くんですもんね!
ところで先生。
もし色が滲んだ場合、直すことは出来るのですか?
はい、できますよ。
ほとんどの場合、仕立てを部分的に解かなければならないですが、直ります。
紋泣きの場合もガードがかかっていれば、被害はうんと少なくて済みますね。
紋の職人さんには、紋の部分だけでも防水スプレー処理をするように薦めていますが、
現状は果たしてどうだか・・・。
「紋は泣くもんや、昔は皆気ぃつけたもんや!」
このような頑固な上絵職人さんもおられますよ。
しかし、着物の日常着時代はこの職人さんの言うように、これが常識だったのですね。
紋とはそういうものだとも私はお伝えしたく思います。
前回の「本物」に通じるところがあるかもですね。
なるほど。昔の常識が今では通用しなくなったってことですね。
洋服では「色が泣く・・・」なんてことは、ほとんど出合わなくなって来ていますから、
洋服感覚でいると着物では思わぬトラブルに遭遇することもあるという訳ですね。
「紋とはそういうもの」
分かりました!頭に入れておきます。
次回は「■33■ 紋の入れ替え」です。お楽しみに!