■28■ 着物、日常着時代のお手入れ

  • 2010.12.06 Monday
  • 22:27


JUGEMテーマ:着物 きもの
 

 ”汗抜きの大切さ”を課題にすると
「では、毎日着物で生活をしていた時代はどうしていたのですか?」
などの質問を受けることが多いです。

確かに、その都度業者に頼んでいたのでは費用の点で問題が起きるのは当然ですね。
では前回の最後に申し上げた「昔と今の着物に対する考え方の違い」から説明していきましょう。


 明治時代になって洋服が浸透してきたことによって、
着物は日常着からフォーマル着へと変わっていきます。
でも昭和の初期(戦前)までは庶民の日常はまだまだ着物でした。

その頃の庶民の日常着はウールや銘仙などが主だったようです。
衿の汗対策として掛け衿の取替えや、また衿に手ぬぐいを巻いたりもしていたようです。


 お手入れはと言いますと、
自分で解き端縫いをし、水で洗い、
あとは張り板や伸子などで張って乾かし、仕立てもしていたのです。

父の話では、「手の早い人なら一晩で着物一枚を縫い上げた」とか。
自分で解いて洗うことが前提だったので、縫い目も粗かったのでしょうね。
その頃の着物の洗いや仕立ては花嫁修業の大切な一つだったのかもしれません。

 私の幼い頃、家には洗い張り用の張り板がありました。
その頃はもう使っていなかったので、私は縁側に斜めに立てかけ、
滑り台の代わりにして遊んでいた記憶があります。

その斜めにした板に、父がケーブルカーを作って遊んでくれたこともありました。
その時はまさか着物を張る板だとは思ってもいませんでした。


 ところで絹の染物などのお手入れは、
やはり我々のようなプロ(染色補正)の手でなければなりません。

現在の染色補正業の始まりは、江戸時代中期と考えられています。
元々御所の衣装の御手入司(おていれし)から始まり、
武家や富裕な町民の絹の染物を手がけていたとされています。

現在、博物館などで見られる着物などがその類です。

庶民の着物は残念ながら残っていません。
何故なら庶民は着物として着られなくなったら、解いて布団や座布団などに作り替える。
それが傷むとハタキや雑巾として最後の最後まで使ったからです。


 ではもっと時代を遡ってみましょう。

ここに平安時代と鎌倉時代の絵巻の模写があります。
いずれも井戸端で洗濯をしていますが、
足で踏んづけて洗っているのは果たして着物なのでしょうか。

 
 クリックで大きくなります。(画像・京都染色補正組合より引用許可済)

これは「京都染色補正組合」が平成2年に出版した『染色補正の技術・技法』に掲載されたものです。

洗った着物をそのまま竿にかけている方が鎌倉時代のもので、
そこには「麻布か又は藤づる等で織った布であろう。
加工を施した高価な絹ではこうはいかない」と解説があります。

どちらにしても被せ(きせ)などは取れてしまいますね。
しかし当時の庶民の生活を考えると、それもごく自然なことだったのでしょう。
今とは違い、もっと気楽に着ていたのは間違いありません。
※被せ(きせ)・・・縫い目に生地がわずかに被さるよう仕上げる和裁の技法。
被せがかかることにより、縫い合わせたラインが美しく仕上がり、
また、きせ分のゆとりが着用による縫い目への負担を和らげる効果もある。


 現在の着物の多くはフォーマルとして考えていますから、
仕立ても着付けも綺麗に、をモットーとします。

小夏さん、いかがでしょう。
着物に対する考え方や価値観が昔と今と異なるのはこのようなことなのですね。


 そうですね。昔は日常に頻繁に着ていたのですから、
汚れに対してももっと大らかでゆるやかに捉えていたのでしょうね。
私の祖母はプロではありませんでしたが、家のものはほとんど自分で仕立てていました。
家族の着物はもちろん、座布団、布団も当たり前。その作業を見ているのが好きでした。
私は見た事がありませんでしたが、祖母の若い頃は洗い張りもやってたかもしれませんね。
今ではもう叶いませんが、そんな話も聞いてみたかったなぁ・・・。

 しかし、現代ではシミや汚れにも敏感、最近では匂いにも神経質になってきています。
家で洗えないのは分かるのですが、絹の染めの着物は魅力だし、
せめて汗の対策などあればいいのですが・・・。何か良い方法はないですか?


 それにはやはりガード加工が有効じゃないですか?


 あ。ガード加工、有効なのですね!
でも・・・ガード加工は嫌う方も多いですよね。


 確かにそうですね。
では次回は「汗染み対策にガード加工は有効」について取り上げてみましょう。


 はい。よろしくお願いします!


次回は「■29■ ガード加工で汗染み対策」です。お楽しみに!


大宮華紋森本(染色補正森本)

人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

■27■ 霧吹きの使い方(程度の軽い水性のシミへの対処)

  • 2010.11.29 Monday
  • 22:28
JUGEMテーマ:着物 きもの
 

 小夏さん、L型霧吹きいかがでした? 使ってみましたか?


 はい!使ってみました。
こんなに細かな霧が出来るんですね。
ちょっと感動しちゃいました。(笑)

あ、そうそう。
先生!L型霧吹きって、水だけじゃなくベンジンでも使えるんですね。
最近、初心者向けのお手入れ指南書でそういう使い方を見かけて探してみたら、
ネットでもベンジンを吹いて使っているサイトや、それを勧めているサイトがありました。


 ちょっと待ってください。
ベンジンを霧状にして空中に飛ばすのは、発火率が高くなり非常に危険なことなのですよ。
我々は作業場に防爆型の換気扇を床に沿わせるよう設置(ベンジンのガスは空気より重いので)
していますし、またそれなりの心得で霧吹きを使うこともあります。
しかし設備のない一般家庭で、素人さんにそういう危険な作業を私はお勧めできませんね。
因みに当工房ではそういう場合は不燃性溶剤を使用します。

霧吹きは基本的には水を霧状にするものと解釈してくださいね。


 
え!?そうなんですか!!
使う前に先生にお聞きしてよかった〜。
事故が起こってからでは遅いですもんね。
私は霧吹きでベンジンを使わないようにします!


 では改めまして。実際にL型霧吹きを使ってみましょう。
まずどのような使い道があるのかを話してみますね。

上でも述べたように、霧吹きは基本的には水を霧状にするものです。
この水霧を着物にかけることによって、簡単な水性のシミは消えてしまいます。

例えば手洗いなどで飛んだ水しぶきによる水染み(ウォータースポット)。
これは濡れた部分がくっきりと際付いた結果なのです。
直し方はもう一度水で濡らし、水霧でぼかしてから乾かせばよいのです。

乾かし方は、自然乾燥、手の平を当てる体温、ドライヤーによる熱風、
コテ、アイロンなどがあります。

では実際にやってみましょう。

裾の水ジミ
上前裾に付いた水染み


(動画1 L型霧吹きとドライヤーを使った作業)
携帯からご覧の方はこちらへ。
http://www.youtube.com/watch?v=TXBlqMJ0ASs&sns=em


 このL型霧吹きでの作業はご家庭でも可能な方法ですが、次の注意点を守ってください。

     容器は蓋がきっちり閉まり、傾けても水がこぼれないものを選ぶ。
    L型霧吹きの使い方(1)
    容器の一例

     容器の蓋に空気穴を開ける。
     穴の位置は、使用する際容器を傾けてもこぼれないよう手前に。
      
L型霧吹きの使い方(2)
    穴を開ける位置

     水に浸かる縦のパイプは、容器内の水が減っても吸い上げるよう、
    容器を傾ける側に寄せるよう固定する。
     
L型霧吹きの使い方(3)
    縦のパイプ位置

     水に濡れた着物は絶対に摩擦しないこと。
    霧の量が多い場合は新たな輪染みがつくので必ず乾いた布で押さえる。

     最初は小さい箇所で試すこと。
水型が広がったり、色落ちが見られたら即中する。



 うわぁ。動画で見ると、水ジミが消えていくのがよく分かりますね!
それに、手の動かし方や霧の加減、手順なども分かりやすい!!


 次は右胸に付いた水染みをL型霧吹きではなく
エアブラシで霧を吹き、コテで仕上げてみましょう。


胸の水ジミ
右胸に付いた水染み

 コテやアイロンはドライヤーより熱が高いので、
その染みが「消えている」という確証がなければ使うのは危険です。
もしも際付きが、不純物や染料溜りなら、熱により定着してしまうからです。


 シミの見極めが出来る、プロだからこその道具なんですね。


 ではやってみますね。


(動画2 エアブラシとコテを使った作業)
携帯からご覧の方はこちらへ。
http://www.youtube.com/watch?v=CnKK_xqLBBY&sns=em
【※着物を動かした時に色が変化し浮き出す楕円形は、生地に織り込まれた文様です。
染みではありません。】

 うわ!こんなにも簡単、短時間に!!
これは水ジミですけど、他の頑固なシミでも
工房で見学させていただいていると、まるで魔法のようですもんね。
先生は魔法使いですか?


 あははは、私も「魔法を使えたらいいのに」って思うことがあります。

 次は汗ジミです。
汗は変色する前の早い段階での正しい処置が大切です。
汗は乾けば見えなくなるため、つい放っておいてしまうケースが多いようですね。
しかし、長い期間放置するとこの白襦袢のように大変なことになってしまいます。

古い汗ジミ
白襦袢の古い汗染み


 うわぁ・・・。これは酷いですね。


 こうなってしまうと直すのに高額な費用がかかります。
生地によっては新しく作った方が安くあがるかもしれませんね。

 汗は乾くと分からなくなりますが、水霧をかけることにより再び見えてきます。
つまり汗の付いた部分は水を吸い込みやすいためです。
汗がついたばかりの初期段階なら、
動画1の方法で、ご家庭でも処理が可能ではないでしょうか。

 ご家庭での作業は完璧を望まず、”汗の際付きを散らす”というくらいの方が良いでしょう。
それでも変色を和らげる効果はあると思います。

但し先に述べた注意点、特にぁ↓は十分に守ってくださいね。


 はい!分かりました。


 汗染みは年数が経つと汗の成分の硬化により、やがては水を弾くようになります。
どちらにしても水霧をかけることで汗染みを確認することができます。


(動画4 汗の硬化による水の弾き)
携帯からご覧の方はこちらへ。
http://www.youtube.com/watch?v=tOigsHTVqy0&sns=em

 次は水霧をかけることで、大きく出てくる汗染みの様子を動画でご覧いただきましょう。


(動画3 黒留袖の古い汗染みの確認作業) 
携帯からご覧の方はこちらへ。
http://www.youtube.com/watch?v=gIQQ_XojxT0&sns=em                 

 汗染みの除去は染み抜きガンとバキュームで行いますが、
ひどい汗は結構手間のかかるものなのですよ。

小夏さんいかがですか?汗抜きについて。


 そうですね。
軽い汗ジミなら先生が教えてくださった方法で、こまめに自分で出来そうですが、
ひどい汗や広範囲となるとプロに頼まなくてはいけないですよね。
その度にお手入れに出していたのでは、お、、お財布がぁ・・・。


 そうですね、着物をよくお召しになる方は、せめてそのシーズンの終わりには
「汗抜き」として専門業者に出されることをお勧めします。


 そう、シーズンの終わりにはお手入れに出しておきたいものですね。
衣替えで仕舞ってしまう前に、お手入れするのが安心です。
翌シーズンに慌てなくて済みますから。

けれど。着物を着ることも少なくなった今、お手入れに出す数も少なくて済みますが、
着物が日常着の時代に毎回毎回プロに頼んでいたのでは追いつきませんよね。
 


 それはそうですよね。
しかし、その時代は今とは価値観など異なることが多いですね。
 ではその課題は次回ということにしましょう。


 はい、先生。


次回は「■28■ 着物、日常着時代のお手入れ」です。お楽しみに!


大宮華紋森本(染色補正森本)

人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

■26■ しみ抜き用霧吹き

  • 2010.11.22 Monday
  • 22:46
JUGEMテーマ:着物 きもの

 
 小夏さん、今日は我々しみ抜き職人が使う霧吹きの話をしましょうか。


 はい!よろしくお願いします。


 水を使ったしみ抜きの際、
濡れた部分と濡れていない箇所をぼかすために霧吹きが必要となってきます。
これで新たな輪ジミの付くのを防ぐのでね。

 世間には様々な器具がありますが、
我々の使うものは細かく霧が出るものでなければなりません。
 例えば水滴が粗いものや、水がぽたりと落ちるものは駄目です。
特に最近の染物は柔軟仕上げ剤を通したものも少なくありませんので、
これでは新たな水型が付いてしまいます。


 霧吹きならなんでもいいという事ではないのですね。
では、どのような霧吹きがよいのでしょう?


 私の幼い頃は、父の仕事場で職人さんが大勢並んで染み抜き作業の際、
なんと皆さん、口に直接水を含みプーっと霧を吹いていたのですよ。
 霧を吹く音や、熱いコテを水に浸けるジューッという音など、
そんな音が響き渡り子供心に「カッコいいな〜」なんて思っていました。

 もちろん、霧を吹く器具もあったのですが、直接水を口に含むことが自慢だったのでしょう。
しかし今思うと唾液も混ざるので決して綺麗とは思えませんよね。


 あははは・・・。確かにそうですね。


 私がこの仕事に就いた1965年には、主にL型霧吹きが使われていました。
これは画材用として売られたもので安価で細かい霧が出るため人気が出たのです。
薬品の瓶やコーラの瓶など、職人は皆好みの容器にL型器具を差込み使っていました。
L型霧吹き
L型霧吹き

 1970年頃の私はヤケ変色直しなどの染料を広範囲にかける場合、
刷毛だけではなく、L型霧吹きも使っていました。
結構体力もいるので、間もなくコンプレッサーを動力にエアブラシ(ハンドピース)を使い始めました。
 新しく移転した工房の隣が、たまたまそういう機械を取り扱っている商社だったというのが幸いでした。


 材料屋も商社も私の考案に驚いていましたが、
色かけの仕事が私の元に多く集まって来るのを見て、数年後にその2社が手を組み、
私が使っていたその他の色かけの用具などをセットとして、
コンプレッサーとエアブラシを売り出したのでした。
 我々の職種がエアブラシを使いだしたのはその頃からですね。
ガン3点
エアブラシ3点 用途に応じてサイズが違う
3点共当時からのもの。

 しかし道具は職人の個性が出るのか、全てが機械を使っているわけではありません。
もちろん、L型もあれはその他さまざまの霧吹きも皆さん使っておられるようです。


 おぉ!景先生の発想から新たな活用法が生まれたのですね!


 今年の夏に奈良の「大原和服専門学園」から、しみ落としの講義・実演の依頼を受けました。
機械は持ち込めないし、そこでふと思い出したのがL型霧吹きだったのです。
その時に使ったのが写真右側です。
L型霧吹き(2)
容器付きL型霧吹き (容器を前に傾けても水を吸い上げるよう縦の管を斜めに固定。)


 持ち運びに楽なようにと、ポリの小型容器にセットしてみました。
実演後、先生や大勢の生徒さんからのご要望で2日目には沢山用意して持って行きました。
 ちょっとしたコツや少々お腹に力はいりますが、皆さんけっこう楽しんでいらっしゃいました。 
講義・実演(1)  講義・実演(2)
大原和服専門学園での講義・実演の様子

 それから、写真(容器付きL型霧吹き)左は35年前まで私が使っていたL型霧吹きです。
瓶は当時のものですが、L型器具とゴム栓を新しいものに取り替えてみました。
なんだか懐かしいです。


 先生、これが手軽に霧を細かく吹ける霧吹きなのですね。
私もL型霧吹き使ってみたくなりました。


 はい。ネットで購入できるサイトもありますが、
今週半ばに小夏さんからの依頼の仕事が上がりますので、サンプルとして一緒に送りましょう。


 ありがとうございます!!


 
次回は実際に霧吹きを使ってみましょうか。


 はい!楽しみにしてます!!


次回は「■27■ 霧吹きの使い方(程度の軽い水性のシミへの対処法)」です。お楽しみに!


大宮華紋森本(染色補正森本)

人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

■18■ 最も原始的なシミ落とし

  • 2010.09.27 Monday
  • 19:42
JUGEMテーマ:着物 きもの


  シミを見えなくする方法は3つあります。

 
1、 離脱…シミを生地から離してしまう。
 2、 漂白…シミの成分は生地に残るが化学的に見えなくしてしまう。

 3、 補正…シミは残るが色かけなどで見えなくしてしまう。

これは我々染色補正の作業を分類したものです。



 では1の「離脱」について話してみましょう。

シミを根本的に生地から離してしまう方法には、
シミを溶かして生地から離してしまう方法と、
溶かさずに離してしまう方法があります。

前者はすでに「油性のシミ落とし」「水性のシミ落とし」で説明した通りです。


 今日はシミを溶かさず落としてしまう方法を紹介しますね。
簡単にいえば叩いて落とすということです。
シミ落としの最も原始的な方法ですね。

叩くといっても生地を傷めてはいけません。



 ではもっと具体的に。

雨の日に泥はねを上げたことはありませんか?

この泥はねを乾かしてから、
毛先の平らなかための歯ブラシなどで擦ってやれば良いのです。
つまりブラッシングでもって固まった泥を壊して落とすというものです。

また指で摘みながら軽く揉んでいただいてもかまいません。
そして表面に粉末状に残ればパンパンと叩いて終了です。


 先生?中途半端に家庭では触らない方がいいんじゃありませんでした?


 はい、確かに。
しかし今回のテーマは「シミを溶かさずに落とす」ですから、
溶かして落とす時のように、溶けたシミが繊維の中に染み込むことはありません。

但し、完全に落とそうと思わないでくださいね。
生地を傷めてしまいますので。残れば専門店へ持ち込みましょう。


 最後に大切な注意事項です。
この方法は生地を完全に乾かしてからでないと駄目ですよ。

雨で湿った状態のままで擦ったり揉んだりすると、どうなりますか?
はい、小夏さん!


 はい!スレてしまって直らなくなります!!


 正解です。


次回は「■19■ 紛らわしい用語(1)」です。お楽しみに!


 大宮華紋森本(染色補正森本)

人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

■11■ 汗はドライクリーニングでは落ちない

  • 2010.08.09 Monday
  • 00:56
JUGEMテーマ:着物 きもの
 

 さて、小夏さんは汗をよくかく方ですか?


 そうですね・・・。
かくことはかきますが、少なめのような気もします。
汗をかかないのもよくないと聞きますので改善したいのですが。



 私は汗かきですね。
特に脇からの汗、冬寒くても出ています。
ジャケット類の上着でも裏側には汗がたっぷりつきます。
ですから汗に関しては人より神経質かも。
外出着は帰宅後、自室に戻るまでに工房で必ず汗抜きをします。
夜中に呑んで帰ってきてもこれだけは欠かさなかったですね。
(今はすっかりおとなしいですが。汗)


 うわぁ、代謝がいいのですね。羨ましいです。
(自分で汗抜きできるのも羨ましいです〜。笑)


 では汗について話を進めましょう。
汗は乾けば見えなくなる、というところに落とし穴があるのです。
何年も放置すれば必ず黄色く変色してきます。



 そうですよね・・・。
汗は後々現れる。洋服でも変色して気付くことがありますね。


 そう。ですからそうならないよう、
シーズンごとに収納前の汗抜きを怠らないようにしていただきたいですね。

しかし丸洗い(ドライ)をしておけば安心というものではありません。
汗は水性のシミですから、ベンジンやドライクリーニングなどの溶剤では落ちないのです。


 やはり、汗には水ですか?


 そうです。汗を落とすにはその部分の水洗いが必要です。
ご家庭では生地がスレたり、染を傷める危険性が大きいので、
着物専門店に依頼するのが安心です。

その場合必ず「汗抜き」と指示すること!
お店での落とし方なども尋ねておくと安心につながるかもしれませんね。


 はい!お店に依頼する際には「汗抜き」とお願いすればいいのですね!


 汗ジミについてもう少し詳しくお話しておきましょう。
汗は流れるものだけではありません。
見えなくとも体内から蒸気として出ています。

そして手のひらからの汗。
手のひらでよく触る箇所は、年数が経って変色してから初めて発覚します。
手の汗は自覚が少ないだけに、たちが悪いかもしれませんね。

袖口の前襟元上前のお端折り、手を置く上前の膝上あたりに多く見られます。

特に濃い色の着物の場合は変色がよく目立ちますが、
汗の成分を落とし、色かけ(補正)でその多くは目立たなくなります。


 あ、わかります。
その部分は、ふと気付くとに変色が出てたりしますよね。
やはり無意識のうちに手で触っているからなのですね。


 また汗で濡れることにより、スレを起こすこともよくあります。
特に背中の帯下や、胸の脇部分
着用中は体温も相まってスレやすくなるのです。



 あ、そうですね!
絹は水分を含むとスレやすくなるんでしたね。
背中や脇は汗をかきやすい上に帯でスレやすいのですね。



 そうです。
そして汗抜きの依頼をされる方の中には、
「汗の塩気で白くなりました。落としてください。」
と、このようなことをおっしゃる方もおられます。
しかし、その多くはスレて生地が毛羽状になり、色落ちも見られます。
堅牢度の弱い染や濃い色の場合、着物の色が帯に、
また帯の色が着物につくことがあるのです。

直すのは我々染色補正業者なのですが、
着物を着用される皆さんにも、汗に対して何らかの対策が必要なのではないかと思います。


 乾いた汗に塩が吹いて白くなったのかと思いきや、
スレで白く見えていた・・・なんてこともある訳ですね。
汗での色落ち、色移りも時々耳にしますね・・・。

汗は厄介なのですね。
着物を着る際の汗対策、着物関連のコミュニティでも話題に上っているのを見たことがあります。
実際に着物を着る私たち自身でも、知恵を出し合っていろいろ考える必要がありますね。


次回は「■12■ カビは直るの?」です。お楽しみに!


人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

■10■ シミに熱は禁物

  • 2010.08.02 Monday
  • 00:04
JUGEMテーマ:着物 きもの


  さて小夏さん、これまでの話は理解していただけましたね?
では、シミに熱を与えてはいけないことを知っていましたか?


 はい!毎回とても勉強させて頂いています。
熱を与えてはいけないことは知っています。
シミが落ちなくなってしまうのですよね?


 そうです。シミが落ちにくくなってしまうのです。
特に動物性蛋白は熱で固まり、定着してしまいます。
よく、ご家庭で血液をお湯で洗って落ちにくくなってしまってから、
シミ落とし業者に持ち込まれることがあります。


 あ。温度の高いお湯ではなく、水なら良いのですね?


 その通り! もちろん我々は水と洗剤で処理をするわけですが、
ご家庭では触ってほしくないのです。

小夏さん、小夏さんもこんなことを考えたりしたことありませんか?
「少しでもシミを薄くしておけば、シミ落としの費用が安くなるんじゃないか。」なんて。


 あ・・・。
シミを薄くした方が落としやすくなるような気はしますねぇ・・・。



 それ、全くの間違いですよ。

なぜか?

それは、「■6■ 水性のシミの落とし方」でも説明しましたが、
水性のシミは水によって溶けはじめたところを、繊維に染み込むまでのタイミングで
一気に落とさなければなりません。

私達にしてみれば、ご家庭で処理されシミが中途半端に残った状態で渡される方が
作業に手間がかかる
のです。また直りも悪い結果になります。
この上にスレを起こしていたらもっと始末が悪いです。

我々プロが「何も触らないでください」というのは、こういうことなのです。


 なるほど。
シミがついたら余計なことはしない方がいいのですね。
やり方がまずいと生地自体も悪くして、その上シミそのものも落としにくくなってしまうのですね。
そして手間がかかる分、お代金も余計にかかってしまう・・・?


 そういうことです。
では熱の話に戻しましょう。

染物の染料を発色・定着させるための「蒸し」という工程があります。
約100度の蒸気で20〜50分間蒸すのです。
また友禅染の胡粉場(白場)などに、牛乳から作られた蛋白質「カゼイン」という、
水溶液を接着剤として使います。
分かりますね?
動物性蛋白に熱を与えることで、顔料や染料を強く固めるということなのです。


 あ!シミに熱を与えるのは、それと同じ作用なのですね!!
それでシミも定着して落ちなくなってしまう訳か。



 小夏さん、着用後のシワ伸ばしにアイロンをかけることがあるでしょう?
その際は、シミの点検を十分してくださいね。
食べ物のシミに動物性蛋白が含まれていれば要注意。

それから、目に見えていなくても汗をかきやすく付きやすい場所にもアイロンは避けてください
私の元にお手入れとして持ち込まれる着物は、
見えない汗ジミも必ず汗抜きをしてからプレスをかけます。


 汗は付いたすぐは見えなくて、後々変色して出てくるので厄介ですね。
ところで、目に見えない汗をどうやって見つけるのですか?


 汗のつく場所は殆ど限られていますし、水霧をかければくっきりと汗の型が見えてきます。


 へぇ〜。そうなんですか。


 目には見えないこの段階で処理をしておかないと、
将来変色してから直したのでは高くつきますからね


 その通りですね。
汗をかく季節、夏の着物は要注意ですね!


人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

■9■ ベンジンでも油断はできない

  • 2010.07.26 Monday
  • 06:08
JUGEMテーマ:着物 きもの


 
 では小夏さん。
以前、 「■2■ 衿汚れの落とし方」で、一般の皆さんが使用でき、
生地や染めに安全なのはベンジンだと話しましたよね。


 はい。ベンジンでのお手入れ教えていただきましたね。


 しかし、危険性はゼロではないのです。
ベンジンによる輪ジミは再洗いで直るので問題ありませんが、
生地への損傷は取り返しのつかない場合があります。


 あぁ、ベンジンでも生地自体を傷めてしまうようなやり方をしては
再生不可能になるのですね。



 その通りです。
では、私の元に持ち込まれた失敗例を。


.悒織(アタリ)
これはブラシなどを使った場合、力が入りすぎた時に起こります。
生地に対して正面から白っぽく見え、斜めからは見えない、もしくは濃く見えます。


▲好
■4■ 摩擦における生地への損傷」を振り返ってみましょう。
「絹は水分を含むとふやけ(膨潤・ぼうじゅん)、傷がつきやすくなる」とありました。
ベンジンでは生地がふやけないから安全だと申しましたが、
雨の日などは要注意です。

その訳は、湿度が高いと着物自体も、ふき取る布も水分を含んでしまうということです。
着物や布が湿っぽく感じたら要注意!
雨の日は触らないでおきましょう。


△笋屬
シミを放っておくと黄色(黄変・おうへん)くなり、次に茶色くなり、やがては黒くなります。
変色は生地が弱ってきたということ。
黒ずんだシミは少しの摩擦でもやぶけてしまう恐れがあります。
ブラッシングは要注意ですぞ!



 なるほど。
ベンジンでもブラッシングの力加減、
湿度、生地の状態などの見極めも大切なのですね。



 その通り。ベンジンなら比較的容易ではあるけれど、
注意すべき点はきちんと確認しなければいけませんね。
小夏さんはこれまでに以上のような経験はありませんでしたか?


 先生、実は・・・。


 実は?


 私、まだベンジンを使った事がありません!!



 ・・・・・。

そ、そうですか。では、チャレンジ!ですね。
仮に失敗しても落ち込まないようにね。失敗は貴重な体験ですよ!
身体で覚えるというのは、この嫌な思いを克服することなんですね。


 はい!失敗を恐れずチャレンジしてみます!
でも・・・失敗しちゃいけない大切な着物は、先生にお預けします!!!

 ところで先生? 先生は失敗されないんですか?


 えっ! 私ですか? ま、初心者の頃はね。
これは仕事でも何でもそうですが、一番良い状態から少しでも超えると駄目になるのですね。
つまり失敗してはじめてベストポイントが分かるわけです。
言い換えれば失敗は今後のための大切な尺度にもなります。でも仕事で失敗は許されません。
 メンテナンスや補正、また作品作りでも
より良い仕事を追及するためには紙一重が勝負なのです。
緊張感は快感につながりますよ。


 おぉ〜。仕事人ですねぇ〜。
職人さんでありながら作家さんとしての感性もあるのですね〜。



来週は「■10■ シミに熱は禁物」です。



人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

■6■ 水性のシミの落とし方

  • 2010.06.28 Monday
  • 00:48
JUGEMテーマ:着物 きもの
 

 Dr.景です。
さて、今日は水性のシミ落としについて話しましょう。

小夏さんは食べ物や飲み物など水分を含んだシミが付いた時、
濡れたおしぼりやハンカチなどで拭いたり、押さえたりしたことはありませんか?



 は〜い!ありま〜す!!



 あかん! それは間違いや!!




 
・・・・・。





 はい、気を取り直して。
応急処置の場合は必ず乾いた布やティッシュペーパーを使いましょう。
その理由とは・・・


 その理由とは?


 水は必ず乾いた方に移動するということをまず頭においてください。
シミ落としとは、
水によって溶けたシミを水と一緒に乾いた別の布などに移動させる
ということなのです。
因みに私は、何度も水で洗い使い込んだ木綿のさらしを使っています。


 なるほど!”水は乾いた方に移動する”ですね!


 絹は水を含むとふやける(膨潤)性質があるのはすでにご存知ですね。
(■4■ 摩擦における生地のへ損傷参照)

水性のシミは水によって溶け、落としやすくなるのですが、
同時にふやけた繊維の中にも浸み込みやすくなるということです。
シミ落としの極意は、シミが水によって溶け、落としやすくなったところで、
繊維にしみ込むまでに生地から放してしまうことなのです。

 もちろんこれには熟練したシミ落としの技術を要します。
下手をするとシミが繊維に染まり込み、生地はスレを起こし、
おまけに染めの色まで剥げてしまいますからね。


 う〜ん。水での作業は難しいんですね・・・。


 そうでしょう?
では今日のまとめです。

シミが付いたら落とそうと思わず、これ以上広がったり染み込んだりさせない、
というところで留めること。


それには、乾いたハンカチやティッシュペーパーなどで吸い取るように押さえること。
(決して擦らない!)

そして後は着物専門店に持ち込みましょう。
その際に、
付いた物が分かっていればできるだけ詳しく伝えてくださいね。



次回は、「■7■ 柔軟加工とは」です!




人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

■5■ 水型への対応、応急処置

  • 2010.06.21 Monday
  • 22:15
JUGEMテーマ:着物 きもの
 

 Dr.景です。
では水性のシミ落としについて少しずつ話を進めることにしますね。
今日は水型についてです。


 先生。よろしくお願いします!


 はい、では始めます。
水によってできるシミは、単に水型(ウォータースポット)となる場合と
生地に含まれている不純物が水によって移動し、輪ジミとなる場合があります。
後者は染の染料が弱い場合。また染の仕上げや補正に用いられた染料など
十分に定着していなかった分が移動する場合です。

そしてもう1つ。
昔に比べて近年の着物は、どうも水型が付きやすくなってきているようで、
その理由のひとつに柔軟仕上げ剤が挙げられます。

近年は地染めの仕上げに柔軟液に通すことがよくあり、
言い替えればこれは生地に新たな不純物を残す結果となります。
この柔軟液が水やベンジンによって溶け、輪ジミや型を付けてしまうのです。

水で付いた型なら水で、ベンジンで付いた型ならベンジンで
再洗いをすれば直る訳なのですが、この場合は我々プロの領域になります。


 そうなんですか!
最近の着物は水型が付きやすくなってるのですね・・・。
柔軟仕上げ剤とは、文字通り生地に柔軟性を持たせるための物ですよね?
なぜ近年はそのような物が使われることが多くなったのでしょうか?


 この回答は次回にしましょう。これだけで話が終わってしまいそうなので…。


 了解です!では次回に。


 では、幸いにも不純物の移動ではなく、単に水がついた場合の対処法です。
手洗いや食事の際に2〜3ヵ所飛んだくらいなら、即座に手の平を当ててください。
わずかな水型なら程よい体温で消えてしまいます。
コツは手の温度が下がらないよう、手の平の位置を頻繁に変えることです。
但し自分でできるのは前身頃で、しかも手の平に収まる程度ですね。

 突然の雨などで広範囲に付いた時は千手観音さまにお願いしましょう。
千手観音さまがお断りになれば、やはり着物専門店に任せることですね。


 せ、千手観音さまですか!?


 うっかり水が付いた場合、
くれぐれもハンカチなどで拭かない(擦らない!)ように!
 

スレになりますよ!!


 これ、慌てて頭が真っ白になってると、ついついやってしまいますね。
水が掛かってもハンカチやおしぼりで拭かない(擦らない)!!
慌てず騒がず、手の平の温度で消していけばよいのですね。
そして、広範囲に付いた時は千手観音さまに・・・。
ニヤリ。


 おいおい・・・。

次回は「■6■ 水性のシミの落とし方」です。
つまり応急処置です。



人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

■4■ 摩擦における生地への損傷

  • 2010.06.18 Friday
  • 23:41
JUGEMテーマ:着物 きもの
 

 Dr.景です。
さて、今日は摩擦における生地への損傷について詳しく説明しましょう。
分かりやすいように整理してみるね。

以下各項目の損傷への対応策はプロによるものであり、
ご家庭で容易に出来る作業ではありませんので、実行なさらないようお願い致します。


 はい!景先生よろしくお願いします。


 【生地が水分を含んだ状態での摩擦】

 スレ
        

  絹は水分を含むとふやけ(膨潤・ぼうじゅん)傷がつきやすくなる。

  摩擦で繊維の表面がめくれ、毛羽状(毛羽立ちとは異なる)になる。

  正面からは見えにくく、斜めから白っぽく見える。

  上から色や柔軟剤を乗せることで多少見えにくくはなるが、根本的解決ではない。



 【生地が乾燥状態での摩擦】

 ヘタリ(アタリ)

  摩擦や圧力がかかり生地の表面が押され凹んだ状態。

  スレとは逆で正面からは白っぽく、斜めからは濃く見える。

  蒸気を当てることで、ある程度は戻せる。




 チョークマーク(業界用語)

  染の工程で生地に不純物が残り、生地の表面の弾力性が悪くなって、
  わずかな摩擦でも白ける。

  ヘタリ同様正面から白っぽく見える。

  蒸気を当てることや、十分乾燥させて表面をブラッシングすることで見えなくなるが、

  あくまで一時的なものであり、根本的な解決法ではない。




 毛羽立ち

  摩擦で繊維が縦に裂け、セリシン中にある分離繊維が表面に現れた現象で、
  毛玉(ピリング)の原因になる。


  

 いかがでしたか?
同じ摩擦でも生地の状態で様々に現象が変わってきます。



 摩擦による生地の損傷・・・角度によって見えたり見えなかったり、
その見え方も原因によって様々なんですね。
生地が水分を含んでいる状態での摩擦は厳禁と教わりましたが、
乾いた状態での摩擦でもトラブルが発生するのですね。



 因みに仕立て時の「へら」はアタリに属します。
あえて傷を付けて目印にするのですね。



 なるほど。
仕立て時のヘラ(印しつけ)が「アタリである」というのは納得です。



次は、「■5■ 水型への対応、応急処置」です。




人気ブログランキングへ  にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ  

calendar

S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< March 2017 >>

女系の絆 女紋


『 女 紋 』  森本景一 著 
A5版135頁 1,500円(税込)

ご希望の方は「大宮華紋 森本」サイト内、『女紋』販売ページよりご注文頂けます。

ブログランキング

blogram投票ボタン

人気ブログランキングへ

にほんブログ村 ファッションブログ 着物・和装へ

当ブログについて

当ブログ記事内の画像や 文書の無断の転載や複製・ 類似・引用等は堅く禁じております。

selected entries

categories

archives

recent comment

recommend

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM